100年宇宙船とスペースコロニーの構想 Part-3 スペースコロニー編 [宇宙のロマン]

スペースコロニー

 

さて、恒星間旅行で、“もっとも快適そうで理想的そう”なのがスペースコロニータイプの宇宙船ではないか、と私は思います。 ということで、今回はスペースコロニーについて見ることにしましょう。

 

オニール博士によるスペースコロニーの想像図

スペースコロニー1974

Designed in 1974 by Dr. Gerard O'Neill (Founder of the Space Studies Institute, www.ssi.org)



スペースコロニーは、1969年にアメリカのプリンストン大学にて、ジェラルド・オニール博士と学生たちのセミナーの中において、惑星表面ではなく宇宙空間に巨大な人工の居住地を建設するというアイデアから誕生しました。
それが1974年にニューヨーク・タイムズ誌に掲載されたことから広く一般に知られるようになりました。
 
オニール博士の構想によれば、地球と月との引力の関係が安定する領域ラグランジュポイントにスペースコロニーを設置し、シリンダー形の居住区域を回転させることによって遠心力でできる擬似重力を作ります。コロニー内部には地球上の自然が再現され、人々が地球上と変わらない生活ができるというアイデアです。

ラグランジュポイント
laguranjupoints.jpg 
 
 
例えば直径約6kmの円筒形のスペースコロニーが地球と同じ重力(1G)を得るには、1分50秒で一回転すればいいわけです。これはかなりの高速ですが、地球と同じだけの重力を必要としないのであればもっと低い速度でもOKです。

スペースコロニーの必要性およびその建造目的は、地球全体での人口の爆発的増加・資源枯渇などに対する解決法の一つ(そのほか、確率は少ないが巨大隕石や彗星といった他天体衝突に対するリスク・ヘッジ)として注目されていましたが、冷戦が終結し、各国の宇宙開発投資が削減されたこと、そしてとくに先進国においては出生率の低下傾向が続いていることなどから、今のところ現実性のあるプロジェクトとして考えられてはいません。
 
また、建築材料は月や小惑星から持ってくるとしても、居住する人間は地球から運ばれなければなりません。住人数と費用面から考慮すると、軌道エレベータの()ような新規の輸送手段が必要になってきます。以上の理由より、費用対効果の面から考えると、人口増加の解決策として有効であると言えないようです。現在では単に宇宙空間への植民手段の一つとして認識されてだけのようです。(軌道エレベーターについては次回に取り上げる予定です)
 
  
 
シリンダー型

1974年にジェラルド・オニールにより提案されたもので、読んで字のごとくシリンダー型をしています。オニール氏の著書『ハイ・フロンティア』(The High Frontier: Human Colonies in Space)では、「アイランド3号(Island Three)」と呼ばれています。シリンダーは直径6km、長さ30kmで1000万人の人間が暮らせるという巨大なもので、1分50秒で1回転し、地球と同じ人工重力を発生させます。円筒内部は軸方向に6つの区画に分かれており、交互に陸と窓の区画となっています。窓の外側には太陽光を反射する可動式のミラーが設置され、昼夜や季節の変化を作り出します。


ベルナール球型

ベルナール球またはバナール球(Bernal sphere)は、1929年にJ・D・ベルナール(John Desmond Bernal)が提案したデザイン。原案では、直径16kmの球殻に2万~3万人の人口を想定していた。後にスタンフォード大学にて再設計され、直径500m、1万人の人口で、1.9rpmで回転して赤道部分に地球と同等の重力を持つ構造のものが提唱されるようになった。この設計案では、太陽光は外部に設置された鏡にて反射され、極付近の大きな窓から取り込まれる。この再設計したものは、オニールの著書ハイ・フロンティアにて島1号(Island One)と呼ばれている。また、直径1.8km、人口14万人に拡大したものは島2号(Island Two)と呼ばれている。



ベルナール球の想像図

bernal3.jpg



スタンフォード・トーラス型


スタンフォード・トーラスの想像図

スタンフォード・トーラス




コロニー内部



スタンフォード・トーラス(Stanford torus)は、1975年にスタンフォード大学にて設計されたトーラス型(ドーナツ型)のデザイン。直径1.6km、1万人の人口を想定しており、1rpmで回転してリング内部の外側に、地球と同等の重力を発生させる。太陽光は鏡で取り込まれる。リングはスポークで結ばれ、スポークは人や物資の移動にも使用される。また、スポークで繋がれたハブは無重力であるため、宇宙船のドッキングなどに使用される。



小惑星型

構造物を一から建造するのではなく、小惑星や小型衛星などの天然天体の内部をくり貫き、内側を居住区域とするもの。
建造資材を自己調達できるメリットがあります。ただ、問題は小惑星は重量が小さいことから、この問題をどのようにしてクリアするのか、という課題があります。
考えられる方法の一つとしては、小惑星を回転させて、オニールのシリンダー型スペースコロニーのように擬似重力を作り出すことです。小惑星のサイズにもよりますが 


asteroid_colony_2-650.jpg




スペース・ナッツII型

1996年の大林組の季刊誌に掲載されたデザイン。長さ1.9km、アポロチョコを二つ結合したような形状をしている。外殻と内殻の2層からなり、人口は2千人。



spacenut-II.gif



さて、スペースコロニーの建設および生活については、先に恒星間宇宙船の項目であげたような宇宙線の問題があります。宇宙空間で1年生活した場合、年間80mSvの被曝をすることになります。年間50mSvが安全上のリミットと言われており、健康上問題ない被曝量は年間3mSvです。さらに、太陽フレアによりまれに放射される大量のX線と高エネルギー荷電粒子の問題もあります。これらの放射が起きると、50%致死線量(LD50)の4Svを超えるほどの放射線が放出されるのです。

研究の結果、巨大なスペースコロニーではその構造(2m以上の厚さの鉄)と空気がガンマ線を効果的に遮蔽するバリアーとなることが発見されています。小さなコロニーでは、外側に多量の岩石を浮かべて(回転させないで)防護壁とすることができます。太陽光は放射線対策をしたルーバーから鏡を通して入射させることができます。
放射線問題を考えた場合、小惑星利用のコロニーがもっとも安全でコスト的にも安くなるかも知れません。ただし、この場合は重力が小さすぎるという問題がありますが…
 
 「機動戦士ガンダム」に登場するスペースコロニーはオニールのスペースコロニーに似ている
kidou_elevator_gandamu.jpg

ちなみに、「機動戦士ガンダム」で知られるアニメーション監督の富野由悠季氏などは、2008年に東大工学部主催のイベントに出席した際に、「最新の金属工学などをみても、まずコロニーの外壁には放射線を防ぐために10mから20mという厚さの鉛を用いらなければならない。また円筒が回転することによって、慣性による擬似的な重力を発生させるがあくまでもこれは疑似。1000年から2000年住み続けられる構造体にはなり得ない」と説明。 
 
また地球は、驚異的な“静かさ”を誇っているという。自転する地球の表面に立つ人類は、音速の数倍で移動していることになる。「にもかかわらず、海でも山でもいいがシーンとした環境はある。こんな環境を作れるものなら作ってみろ」と教授らを挑発するように富野氏が語ると、会場からは笑いが起こっていた。 
中須賀・ 工学部・航空宇宙工学科教授も、「数十メートル厚におよぶ鉛外壁の構築や、真空の宇宙でコロニー全体を与圧することは困難」と技術的困難さについて述べ、それ以上に難しいのがスペースコロニーを建設するだけの資材をどのように運搬するかであり、中須賀教授は「地上から宇宙への物資運搬がはるかに容易にならなければコロニー建設は難しい」との考えを示した上で、しかし、教授はそういった技術面の難しさを踏まえてでも「人類は宇宙に出て行くだろう。」と結論づけています。(次回は宇宙空間にローコストで大量の物質&人員を送ることを可能とする「軌道エレベーター」をとりあげる予定です)


 
 
終わり
 
 
                                           



参考資料/サイト: 恒星船(Wikipedia)

            宇宙の飛び方

            スペースコロニー













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コメント 8

SIBA-dog

いきなり物理的な記事があらわれて、理解するまで時間が
かかりそうです。でも将来性のある構想で実現できる事を
信じています。単なる夢物語ではなくなっていますからね。
by SIBA-dog (2012-09-14 00:33) 

hnhk

「軌道エレベーター」と言えば、「機動戦士ガンダム00」では実現されたことになっていますね!
by hnhk (2012-09-15 20:36) 

シービーちゃん

コロニーって、ガンダムの世界だけかと思っていたのですが、随分、昔から議論されていたのですね。驚きです。
by シービーちゃん (2012-09-16 22:54) 

カリメロ

出て行かなくて、いいのに~。。。
でも、夢ですよね!!
でも~~~夢じゃなくなっちゃう^^;
by カリメロ (2012-09-17 09:22) 

Loby-M

★SIBA-dogさん、ご訪問&コメント、有難うございます。
 宇宙はロマンがあります。戦争や軍備競争でお金を浪費しなければ、このような夢の大部分は実現できるものです。

★hnhnさん、ご訪問&コメント、有難うございます。
 機動戦士ガンダムなどのSFアニメではさまざまな夢が現実として描かれていますね。

★シービーちゃんさん、ご訪問&コメント、有難うございます。
 ガンダムなどは、オニール博士の計画をベースにコロニーを取り入れたのだと思います。

★カリメロさん、ご訪問&コメント、有難うございます。
 そうですねぇ... 今となっては出ていく意義が希薄になってしまいましたね...^^;


by Loby-M (2012-09-26 21:16) 

つなみ

もう実現化してますものネ。(*´∇`*)
by つなみ (2012-10-08 13:50) 

Loby-M

★つなみさん、スペースコロニーはまだですが、ISSには長期滞在が可能となっていますね♪

by Loby-M (2012-11-12 07:05) 

Kow

誤字がありましたのでご報告を。
誤:オーニル博士によるスペースコロニーの想像図
正:オニール博士~

誤:「アイスランド3号(Island Three)」と呼ばれています。
正:「アイランド3号(Island Three)」と~

誤:小惑星型型
正:小惑星型

それと「スタンフォード・トーラスの想像図」の2枚目(環状のビーチ)はスタンフォード・トーラスではなくバナール球ですよね。
同じように「スペース・ナッツII型」の下にある画像もスペース・ナッツIIではなくスタンフォード・トーラスの構造なので、知らない人が見たら少し誤解を生みそうです。

また、「ベルナール球またはバナール球(Bernal sphere)」とありますが、バナールは英国の科学者ですので、「ベルナール」だとフランス語読みの上にそもそも綴りがBernard(=英語読みだとバーナード)になってしまいます。よって「ベルナール球」というのは明らかに誤記です。
by Kow (2013-05-31 20:54) 

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