100年宇宙船とスペースコロニーの構想 Part-2 亜光速旅行 [宇宙のロマン]


亜光速旅行


さて、前回までに見てきた原子力ロケットエンジンは、すべて亜光速に達するものですが、太陽系外の惑星などに到着するためには超長期にわたる航行期間が必要であり、そのためには快適な居住スペースが不可欠です。これは無重力、もしくは弱い重力の環境に人間が長時間住むと生体機能に支障をきたすためです。そのほかにも寿命の問題や精神面の問題もあります。

 恒星間旅行には快適な居住スペースをもつ宇宙船が必要となる

space_ship.jpg

 

恒星間宇宙船には有人・無人(ロボット宇宙船)の2種類があり、どちらのタイプを選択するかによって恒星間宇宙船に大きな違いをもたらしますが、ロボット宇宙船の場合なら致命的な故障となる機械的なトラブルも、十分な技術力を持つクルーがいる有人恒星船の場合なら、トラブルをクリアできるという大きなメリットがあります。 


しかし、ロボット宇宙船では、型通りの調査活動や物質輸送には十分でもそれ以外の用途には意味をなさないと思われるため、ここでは主に有人恒星間宇宙船をメーンにとりあげ、どのような問題が出てくるのかを見てみます。

 

旅行期間が100年以上かかると予想される恒星間旅行で(そのため100年宇宙船という言葉が生まれた)、人間が乗り越えなければならないもっとも大きな問題は“時間”と言えるでしょう。

たとえば、前にもあげた「グリーズ581d」惑星までは最低200年かかるため、そこに人間を送り込むために考えられるオプションを参考まで挙げてみます。


冷凍方式

SFなどでよく見られる方法で、現在の科学で比較的実現性が高いと考えられます。文字通り、人間を冷凍して宇宙船に積み込み航行する方法で、“冬眠旅行”とも呼ばれます。

凍結したまま旅行するので、歳もとらず、病気などにもかかる問題もないため、もっとも理想的なように思えますが、(倫理的な問題はさておいて)安全の確保に問題があるのです。

 

「2001年宇宙の旅」でも冬眠カプセルが使われた

2001 training 2.jpg

 

それは、たとえ冷凍したとしても、宇宙空間の素粒子や放射線はひっきりなしに宇宙船を貫通して行き、衝突の際にはエネルギーを発生させる。この過程で凍結された人体は部分解凍と再凍結を繰り返し、また衝突した時のエネルギーは有機分子を変性させる可能性もあるため、人体を構成する分子構造が破壊される危険性がある。生命活動を行っている状態なら、少々の破壊は自己治癒するが、凍結されている場合は破壊される一方である。
このため、できるだけ短い期間で目的地に到着させて被曝量を減らすか、何らかのシールドで凍結人体を確実に守る必要があるが、前者は化学ロケットでは速度に問題があるし、後者はより技術的な進歩を待たなければならない。


遺伝子運搬方式

二つの方法があり、ひとつは遺伝子データのみを搬送し、必要時にのみ有機体として再生する方法。もう一つが凍結精子及び卵もしくは凍結受精卵を搬送し、目的地到着期間を前倒しで解凍受精される方法です。
しかし、これも冬眠方式と同様の倫理上の問題、宇宙線による被爆問題、有機化技術、人工子宮の開発、凍結解除(受精)後もしくは有機化再生後に使用する教育用AIの開発もしくは、遺伝子データを採取した人物のオリジナルの記憶を複製する技術、宇宙船のアクシデントを自動対処する修復システムの構築など技術的にクリアしなければならない問題が多いといえます。
この方法が出てくるSFには、ジェイムズ・P・ホーガン『断絶への航海』、アーサー・C・クラークの『遥かなる地球の歌』、佐藤明機の『ビブリオテーク・リヴ』等で言及されているほか、小松左京の『すぺるむ・さぴえんすの冒険』でも出てきます。

「すぺるむ・さぴえんすの冒険」が収録されている
『ゴルディアスの結び目』(小松左京)と
『断絶への航海』(J・P・ホーガン)





世代交代方式 

これは、種族として恒星間宇宙線に乗り込み、世代交代を繰り返しながら目的地に到達するというものです。世代宇宙船とも呼ばれます。
航行期間にもよりますが、目的惑星到着時に目的(コロニー建設)を果たせるクルーが存在している必要性から、近親交配に陥らずに種族を維持できるために十分な人数や、それらを教育出来るシステム、さらにはそれらの人員が生活できるだけの食糧や水・酸素を生産・消費可能なリサイクルをできるシステムを完備している必要がある。また居住スペースは人体活動を維持できる十分な重力が不可欠であり、食糧生産能力(いわゆる農業を行う機能)も必要となります。これらの条件を満たすためには、遠心力で擬似的な重力を作れる宇宙コロニータイプの宇宙船が理想的と思われます。

この場合、宇宙船は完全に孤立した社会の規模をもつ、小規模な都市国家並みとなることも予測されます。
これらの設備、諸条件を備える宇宙船は非常に巨大となり、それを慣性に抗って推進する強力なエンジンも必要となり、更にはそのエンジンを働かせるための十分なエネルギー源も必要となります。

もし人工重力を船内に発生させる「人工重力場発生装置」が発明されれば、居住スペースはもっとコンパクトに出来るでしょうけど、そのような装置が作れるのであれば、むしろそれは「上も下も無い宇宙空間で、無限に一定方向に落下し続ける」(言い替えるなら「亜光速にまで加速する」)事が可能ですから、推進エンジンに利用されると思われます。そのアイディアはジェイムズ・P・ホーガンの「巨人たちの星シリーズ」で採用されています。

世代交代方式を扱ったSF作品としては、ロバート・A・ハインラインのSF小説『宇宙の孤児』があります。またアイザック・アシモフの『ネメシス』には「宇宙コロニーとして既に機能していた宇宙国家そのものを他恒星系に飛ばす」というアイデアが登場していますが、こちらは超光速航法で1世代未満にて架空の太陽系近隣恒星系に到達しているため、世代宇宙船ではありません。


J・P・ホーガンの「巨人たちの星シリーズ」の『星を継ぐもの』
とアーサーCクラークの『2001年-宇宙の旅』と『2010年-宇宙の旅』


     

 

反物質ロケットエンジン宇宙船

ISV-Venturestar反物質宇宙船 

 

旅行期間が100年以上かかると予想される恒星間旅行で(そのため100年宇宙船という言葉が生まれた)、人間が乗り越えなければならないもっとも大きな問題は“時間”です。

たとえば、前にもあげた「グリーズ581d」惑星までは最低200年かかるため、そこに人間を送り込むために考えられるオプションを参考まで挙げてみます。


冷凍方式

SFなどでよく見られる方法で、現在の科学で比較的実現性が高いと考えられます。文字通り、人間を冷凍して宇宙船に積み込み航行する方法で、“冬眠旅行”とも呼ばれます。

凍結したまま旅行するので、歳もとらず、病気などにもかかる問題もないため、もっとも理想的なように思えますが、(倫理的な問題はさておいて)安全の確保に問題があるのです。

 

「2001年宇宙の旅」でも冬眠カプセルが使われた

2001 training 2.jpg

 

それは、たとえ冷凍したとしても、宇宙空間の素粒子や放射線はひっきりなしに宇宙船を貫通して行き、衝突の際にはエネルギーを発生させる。この過程で凍結された人体は部分解凍と再凍結を繰り返し、また衝突した時のエネルギーは有機分子を変性させる可能性もあるため、人体を構成する分子構造が破壊される危険性がある。生命活動を行っている状態なら、少々の破壊は自己治癒するが、凍結されている場合は破壊される一方である。
このため、できるだけ短い期間で目的地に到着させて被曝量を減らすか、何らかのシールドで凍結人体を確実に守る必要があるが、前者は化学ロケットでは速度に問題があるし、後者はより技術的な進歩を待たなければならない。


遺伝子運搬方式

二つの方法があり、ひとつは遺伝子データのみを搬送し、必要時にのみ有機体として再生する方法。もう一つが凍結精子及び卵もしくは凍結受精卵を搬送し、目的地到着期間を前倒しで解凍受精される方法です。
しかし、これも冬眠方式と同様の倫理上の問題、宇宙線による被爆問題、有機化技術、人工子宮の開発、凍結解除(受精)後もしくは有機化再生後に使用する教育用AIの開発もしくは、遺伝子データを採取した人物のオリジナルの記憶を複製する技術、宇宙船のアクシデントを自動対処する修復システムの構築など技術的にクリアしなければならない問題が多いといえます。
この方法が出てくるSFには、ジェイムズ・P・ホーガン『断絶への航海』、アーサー・C・クラークの『遥かなる地球の歌』、佐藤明機の『ビブリオテーク・リヴ』等で言及されているほか、小松左京の『すぺるむ・さぴえんすの冒険』でも出てきます。

「すぺるむ・さぴえんすの冒険」が収録されている
『ゴルディアスの結び目』(小松左京)と
『断絶への航海』(J・P・ホーガン)





世代交代方式 

これは、種族として恒星間宇宙線に乗り込み、世代交代を繰り返しながら目的地に到達するというものです。世代宇宙船とも呼ばれます。
航行期間にもよりますが、目的惑星到着時に目的(コロニー建設)を果たせるクルーが存在している必要性から、近親交配に陥らずに種族を維持できるために十分な人数や、それらを教育出来るシステム、さらにはそれらの人員が生活できるだけの食糧や水・酸素を生産・消費可能なリサイクルをできるシステムを完備している必要がある。また居住スペースは人体活動を維持できる十分な重力が不可欠であり、食糧生産能力(いわゆる農業を行う機能)も必要となります。これらの条件を満たすためには、遠心力で擬似的な重力を作れる宇宙コロニータイプの宇宙船が理想的と思われます。

この場合、宇宙船は完全に孤立した社会の規模をもつ、小規模な都市国家並みとなることも予測されます。
これらの設備、諸条件を備える宇宙船は非常に巨大となり、それを慣性に抗って推進する強力なエンジンも必要となり、更にはそのエンジンを働かせるための十分なエネルギー源も必要となります。

もし人工重力を船内に発生させる「人工重力場発生装置」が発明されれば、居住スペースはもっとコンパクトに出来るでしょうけど、そのような装置が作れるのであれば、むしろそれは「上も下も無い宇宙空間で、無限に一定方向に落下し続ける」(言い替えるなら「亜光速にまで加速する」)事が可能ですから、推進エンジンに利用されると思われます。そのアイディアはジェイムズ・P・ホーガンの「巨人たちの星シリーズ」で採用されています。

世代交代方式を扱ったSF作品としては、ロバート・A・ハインラインのSF小説『宇宙の孤児』があります。またアイザック・アシモフの『ネメシス』には「宇宙コロニーとして既に機能していた宇宙国家そのものを他恒星系に飛ばす」というアイデアが登場していますが、こちらは超光速航法で1世代未満にて架空の太陽系近隣恒星系に到達しているため、世代宇宙船ではありません。


J・P・ホーガンの「巨人たちの星シリーズ」の『星を継ぐもの』
とアーサーCクラークの『2001年-宇宙の旅』と『2010年-宇宙の旅』


     


反物質ロケットエンジン宇宙船

ISV-Venturestar反物質宇宙船




理想の宇宙船はエンタープライズ?

USS_エンタープライズ


続く
 

                                 
 
 



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heroherosr

目的地に向かう道中で、次世代につなぐだけで一生を終えるなんて生き方はいやですねえ。
by heroherosr (2012-09-03 18:27) 

Loby-M

★よほどの使命感がなければ、”宇宙船の中で一生を終える…”
 なんてことは誰でも嫌がりますね^^;
 これが地球が破滅してしまう、などというSFまがいの状況ですと、
 否応なしに宇宙船に乗り込むよりほかありません。


by Loby-M (2012-09-04 00:14) 

hnhk

>遺伝子運搬方式
映画で見た『タイムライン』(マイケル・クライトン)を思い出します。
あの映画は、たしか複製エラーが事件の発端だったと記憶しています。
久しぶりに、SF小説を読みたくなってきました♪
by hnhk (2012-09-04 08:12) 

SIBA-dog

宇宙船の事あまり思ってみなかったですね。
考えるだけでもゾォッとしますよ。ワンコたち
動物はどうなるんでしょうね。
by SIBA-dog (2012-09-04 15:03) 

Loby-M

★hnhkさん、遺伝子運搬方式は記事中でも取り上げた、
 『すぺるむ・さぴえんすの冒険』(小松左京)にも出てきます。
 SFはいつ読んでもいいですね^^b

★SIBA-dogさん、そうですね。
 普段は誰も”非現実的なこと”と思って考えませんね。
 考えるのは宇宙飛行士だけだったりして…
 系外惑星への移住が出来るようになったら、
 もちろん動物たちも連れて行かれることでしょう♪


by Loby-M (2012-09-05 08:00) 

nana_hyr

Loby-Mさん、こんにちは。
ナナママです。お久しぶりです。
とても興味深く、宇宙への探求がいかに困難か理解できたように思います。
ヒトが想像できることは実現可能、という一説もありますが、
こと宇宙に関しては、これから100年、200年かかっても不思議はないですね^^;
でもロマンがあって、魅かれちゃいます。
火星探査機で得られるナニか、今はこちらにも興味があります^^
by nana_hyr (2012-09-06 14:28) 

カリメロ

こんばんは。
大好きな分野の話です^^
なので息子も影響を受けて好きですよ♪
でも~どんなに小さい時から、勉強して学んでも、夢のような事が現実になっていってもやっぱり不思議は不思議!!
私にとってはロマン♪の世界ですね~^^
by カリメロ (2012-09-06 22:34) 

Loby-M

★nana_hyrさん、こんにちは。 
 サブブログをご訪問頂き、有難うございます。
 おっしゃる通り、こと宇宙に関しては、先進国のどこもが
 ”優先事項”としてないため、宇宙開発、とくに有人宇宙船計画
 などは実現がかなり遅れるものと思われます。
 でも、宇宙へのロマンは持ち続けたいですね。

★カリメロさん、こんばんは。
 おお、ここにも”宇宙大好き少女”がいましたか!
 息子さんも宇宙大好き少年!
 いいですね~♪
 宇宙はロマンをかきたてる舞台ですね^^b


by Loby-M (2012-09-07 23:36) 

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